第975回 「新入社員」
通勤電車の沿線を全面ピンク色に染めて咲き誇っていた桜も、風が吹くたびに花弁がハラハラと舞い落ちています。その様子も風情があって良いのですが、やはり散ってしまうのは惜しいと、少し感傷的になります。
桜が散り始めるこの季節になると、ビジネス街には、スーツ姿があまり馴染んでいない初々しい新入社員らしい男女の姿が、目につき始めます。私の会社の新入社員も4月1日に入社デビューを果たし、現在は新人教育受講の真最中です。なかでも、1ヶ月前までは自身が新人だったスタッフたちが、熱心に後輩たちの面倒を見ています。
大分前になりますが、新入社員採用が話題になる度に、新入社員を採用することを止めよう、という意見が社内のベテランスタッフから発せられた時期がありました。
彼らの言い分は、新入社員を採用すると、教育には手間がかかるし、売り上げへの貢献もあまりできなく、ベテランスタッフたちの負担になるばかりだ、と言うものでした。気分に余裕を持って、彼らの初々しい様子を眺めていると気分は和むのですが、現実を背負うスタッフたちの思いは、もっと複雑だったようです。
一方、毎朝晩耳にする大きく明るい新入社員たちの挨拶の声は、事務所の中に元気の空気をもたらします。新人の頃は、みんな大きな声で挨拶しているのですが、日が経つと共に、段々声も小さくなり、そのうちに聞き取れないくらい小さな声になってしまいます。
ですから、先輩たちの背中に大きな、明るい声を届ける新人たちの存在が、私にはとても好もしく感じられます。恐らくベテランスタッフたちもその声に接すると、自身が新人だったころを思い出し、フレッシュな気分を一時でも取り戻すのではないかと、想像します。本来初々しく謙虚な姿勢を、私たちは一生身に付けておくべきですが、そこは人間ですからついつい慣れると、緩んでしまい勝ちです。新人たちの元気な様子は、そのことを私達に思い出させてくれます。
しかしながら、明るい気分を貰い、初々しい気持ちを思い出させる為だけに、新入社員を採用するのではありません。今では世界中でミレニアム世代、Z世代と呼ばれている若い人たちの世代が、世の中を牽引しています。ですから、これからもビジネスを継続してゆくためには、時代を導く人たちの思想文化や感性や体力などを取り入れなければ、少なくとも新しさに馴染まない組織や人たちは陳腐化するだけではなく、時代に取り残され、最後には零れ落ちてしまいます。
このように新入社員を受け入れることは、組織の様々の新陳代謝を促すという、効果を持ち、それはまるで社会の縮図のようです。
厄介と、捉えられる育成教育も育成に挑戦する力や心が、自身を鍛えるチャンスになり、その都度自身をよりアップグレードできます。そして、若い内の成長は早いですから、新入社員も1年後には次の年の新人の面倒を見る程度には成長してしまいます。3年以上経つと、外すことのできない主戦力になってきます。
そうなると、ベテランスタッフたちはずいぶん楽になるのです。今年もまた1年間、新入社員に付き合って、彼らのポテンシャルを精一杯引き出すことを、自らの課題にしたいと思います。