第868回 「アレもコレも、無理」
私の会社では、翌年度の新卒新入社員の内定が決まると、内定者セミナーを催します。決められた課題に従って、一定期間内定者は演習を行うような内容です。
実施方法は、演習期間がやや長期間にわたるためスケジュールを作成し、進捗の報告および成果物のレビューを行いながら、推進します。
今年も2019年新入社を予定している内定者たちが、セミナーを受講しています。
なかには時々、スケジュールに遅れる人もいて、講師の指摘を受けているようです。
また、内定者の中には、一旦受けた自分の成果物への指摘評価を挽回しようと、再挑戦を自ら申し出る人もおり、来年の新人はなかなか熱いな!楽しみだと、感心しています。
ところで、一人の受講者が「遣る気が起こらない。モチベーションが上がらないのでスケジュールを守れない。困っている。」と、訴えて来ました。
事情を詳しく聞いてみると、彼の部屋には彼がのめり込んでしまう誘惑が溢れているようです。彼にとっての誘惑の具体的なものは、詳しく聞きませんでしたが、恐らく漫画やゲームなどなのでしょう。課題に取り組もうとする彼の気持ちに、それらの誘惑が強引に割り込んで来て、ついつい課題遂行作業が、置き去りになってしまうようです。
何が理由かよくわからないままスケジュールが遅れる人たちは、過去にも何人かいました。
自らの事情を話すのは、少し気恥ずかしい思いがするものです。恥ずかしいかもしれない事情を明らかにし、相談に来た人は初めてですので、先ずはその素直さに評価の感想を抱きました。
と、言うものの一方では、ナンと意思が弱いのだろう。これでは、自分が安きに落ちるだけで、何事にも取り組めないかもしれない、と不安にもなりました。
ところが、一緒に話を聞いていた内定セミナー講師スタッフが、とても素晴らしいことを話し始めました。
講師スタッフ自身の体験談です。大学進学を目標に、受験勉強に臨もうと決意した時の体験談です。それまで、その内定者と同様、ゲームや漫画に熱中していた講師スタッフでしたが、受験勉強に成功するために楽しみを棚上げする決意し、実際に自分の身の回りの環境からそういうものを遮断した、という話です。
つまり、二つを同時に満足させることはできないのなら、自分にとって今一番重要なことは受験勉強である、ということを選択し、実施する環境作りを行ったのです。
講師スタッフの話は、人生において私たちが何度も遭遇する分岐点における選択の要点です。人生には、一方を取って、一方を捨てるという選択しなければならない時が何度も訪れます。
大概の人たちは悩んだ末にどちらかを選択します。その時の判断基準は、その時点の自分にとってどっちが重要か、なのです。重要というのは、将来の生活や周囲の人たちへの影響を含みます。
このように現在私たちが生活する民主主義の世の中では、自分で自分の生き方を選ぶことができます。かって、私たちの国でも、自分の将来や生活を自身で選ぶことができない時代が長く続いていました。そういう時代では、流されてしまうしかない、という生き方でしかありませんでした。そういう時代に比べると、自分で選択できる環境に居ることは有難い、ということもできますが、自分で選択するためには、自分が責任を持たなければなりません。
責任を持って選択をする知恵を持たなくてはならないのです。相談に訪れた内定者も、現在の自分にとって楽しみに浸ることが大切か、自立した将来の生活が大切かの選択次第で、来年の新社会人デビューは諦めるのか、このまま内定セミナーを続けるのかの判断に繋がることを理解してくれたと、思います。
もし、来年の入社が大切だと判断して、内定セミナーを続けるようでしたら、私たちは応援し続けますよ。