第905回 「武器にするコミュニケーション」
毎年の新入社員たちが、必ず揃って日報に取り上げるテーマがあります。それも再三に渡って取り上げられます。
それは、先輩や上司への質問や報告の難しさ、上手く伝えられない自分へのもどかしさに関する内容です。
伝えたい事を上手く伝え切ることが出来ない。説明が足りないため、質問の本来目的に辿りつくまでに、少なからずの時間を会話に要してしまう。何を言っているのか解らない、と言われた。等など・・・。
一方、個別に「あなたはコミュニケーションに苦手意識を持ちますか。」と、言う質問をすると大概の人は、「いいえ、コミュニケーション力には不足は無いと思います。」と、答えます。
まあ、何ごとであれ頭の中で考える概念と、現実には開きがあるものですが、コミュニケーション力については、他のことより一番現実との差を感じます。
言葉はとても便利なツールであり、同じ言語を話す人たちの間では、誰でもが共通に使用し、思いを伝えあうことが出来ます。
但し、このように汎用性が高い故に、ネガティブ側面も持ちます。原則に則って正確に使用しなければ、間違った意味に受け取られてしまうことや、非生産的なコミュニケ‐ションとなってしまうのです。
恐らく、最初に新人たちが躓くのは、コミュニケーションの原則を欠いたコミュニケーションから生じる負の結果ではないかと、思います。
コミュニケーションの原則は、体得するしかないものです。何故なら、体得以外に改めて学ぶ機会がないものであるからです。
体得が学習の場である証拠に、家族や仲間など会話の多い環境で過ごした人は、話上手です。
どちらかと言うと、家族の人数が少ない場合や、話す必要のない環境で過ごした人など会話の機会が乏しい環境に居た人は、話があまり上手ではありません。
ですから、会話を多く体験し、コミュニケーションの原則を体得しさえすれば、誰もが会話上手になれます。
きちんと伝わるコミュニケーションの原則には4つのポイントがあります。それは、「量・質・関係性・マナー」です。
量とは、与える情報の量です。不足すると、情報の受け手は、正しく理解出来ません。多すぎると、それぞれの情報の価値を見極めることができず混乱してしまいます。
時々、整然と整理した話をする目的で、言葉や文脈を省略する人がいます。しかし、整理し過ぎると、情報不足になり勝ちです。その結果、十分な意味や起こっている事実の情報は、伝わりません。
質とは、偽・嘘を言ってはならないと言うことです。偽・嘘情報は、受け手を迷わしてしまいます。トランプ大統領の言うフェイクニュース効果です。
この原則を戦略的に使うなら、それなりの効果が得られる場合もありますが、混乱を生じさせる可能性もあります。私には、優れた戦略とは思えません。
関係性とは、話にストーリー(一貫性)を持たせることです。一貫性がなく様々のことを脈絡もなく話すと、人間の脳は処理不能に陥るか、処理を行うのに膨大な時間と労力を要します。
ですから、話題は関連性のあることだけに留めるべきです。
最後に挙げるマナーは、会話をグレードアップするためのテクニックです。例えば、曖昧や多義的な言い方をしない。簡潔に、整然と適切な語彙を用いて話す、等です。
恐らく職場やビジネスで業務遂行の為に交わすコミュニケーションは、この原則を守るだけで十分機能が満たされます。尤もこれは、コミュニケーションの初級レベルです。
じゃあ、中・上級レベルのコミュニケーションはどういうものなのか。
世の中に大きな影響を与えるのは、上級コミュニケーションレベルです。それは、一世を風靡した「忖度」風コミュニケーションです。表面的な意味や言葉通りの意味とは異なる真の意味を持つ言葉使いによるコミュニケーションです。あるいは、含みを持つ言葉の使い方です。
こういうテクニックを利用して直接の摩擦を避け、交渉事などを成功させるビジネスマン達が世の中を主導しています。
このように日本人なら誰でもできる日本語のコミュニケーションですが、言葉の使い方や文脈の構築次第で、大きな違いを生じさせます。
職場の生産性向上の為にも、自身の武器にする為にも、コミュニケーション力はもっと注力して磨くべきものだと、思います。