第929回 「優れたリーダーVs.駄目なリーダー」
先週、クライアント企業とベンダー企業との打合せに同席した時のことです。私の会社の立場は、
ベンダー企業の依頼を受けて、クライアント企業のシステム構築を行う役割です。
ところで、現在この商談は、クライアント企業側がベンダー企業の商談の進め方に不信感を抱いているようで、予定工期が迫っている割には、なかなか推進条件が整えられず、関係者全員が困っているところです。そういう中での3社による打合せでした。クライアント企業の出席者は取締役、ベンダー企業の出席者は、現場担当の責任者でした。
私が、最初に感じた違和感は、何故ベンダー企業側は決定権をもつ責任者が不在なのか、ということでした。現実、現在クライアント側が抱いている不信感を何らかで和らげるか、払拭して関係改善を図らなければ、予定工期に間に合わせるようにシステム構築を、遂行させることができない状況にまで追い詰められています。ですから、クライアント企業側でも、ベンダー企業の決定権を持つ責任者の出席を要請したようです。
しかし、当初出席を予定していたベンダー側の責任者である部長さんは、前日になって多忙を理由に不参加を言い出したようです。私たちの業界でも、クライアント企業とベンダー企業のトラブルは、
かなり頻繁に見受けられます。
その挙句、裁判沙汰になる場合や、ベンダー側がペナルティを支払い決着させる、などのケースを身近に見たりもします。そういうトラブルの発端は、大部分が商談や業務遂行上の行き違い、双方の思惑の違いから生じています。総じて争いごとは大概が、双方の思惑の違いから生じているものですが。
ですから問題の芽を、早めに摘み取らなければ、必ずと言っていいほど大きなトラブルに育ってゆきます。時間の経過とともに各々の思惑絡みの感情が膨らんでいくからです。
早めに解決すべきだ、というのは関係者全員の共通認識のはずです。にもかかわらず、あろうことかベンダー側の責任者は、打合せに不参加だったのです。これは、責任放棄というしかありません。
その上、打合せの必要性を十分に認識した関係者一同が、全員参加できる日時を調整して決めたにも拘らず、不参加になった、というのは出席者全員に対して大変失礼な行為です。
恐らくクライアント側(クライアントに限らず全員)は、軽んじられているという感情を抱き、不信感は一層増したことだろうと推測します。これは、リーダーのみならず職業人として致命的失態です。
一方、そういう状況になったにもかかわらず、クライアント企業の取締役は、感情に委ねることなく、大変冷静にクライアント側の思いと事情を滔々と、静かな口調で述べました。それまでの経緯を人づてに聞いただけで、偏った理解をしていた私にも、十分に経緯が理解でき、クライアント企業の思いが理解できました。お見事!と、掛け声をかけたくなりました。一般的には、こういう場合激高して、声を荒げ自己の思いを激しく投げつける役員さんを多く見受けます。
しかし、件の取締役さんは激することもなく、落ち着いた語り口で、しかし、自分たちの思いと要求をしかり語り切りました。リーダーとしての優れた資質を強く感じさせられた瞬間でした。
その上、感動させられたのは、クライアント対ベンダー間の行き違いによって、私たち「ものつくりチーム」が影響を受け、業務遂行に行き詰まることのないよう配慮して下さったことです。
具体的には、私の提案する覚書を交わす、という形式に同意下さり、私たちが円滑に業務遂行できるよう計らってくださいました。このことにも優れたリーダーの資質、広い視野と寛容の心で全体に臨む、という姿を見ました。漫画かドラマの中のデフォルメされたリーダー像のような二人をリアルな現実で並べて比べることができ、私は大層楽しみました。
責任を取らない、課題解決に正面から向き合おうとせず逃げる、顧客や関係者に不利益を与えても自己の感情を守ろうとする、まるで子供じみた駄目リーダー。Vs. 怒りをコントロールする強い自己抑止力、しっかり伝え切る優れた話術、広い視野と寛容の精神で生じている問題をハンドリングする解決力、などの優れた資質を持つリーダーを目の当たりにしました。
これは、生まれつきの性分・資質だから仕方ない、と思いますか。
あるいは、鍛錬によって鍛えられると、思いますか。
私は後者であると信じています。