第944回 「好きだけでは、プロにはなれない」
同調意識の高い私の会社は、中国を除く世界中の景気にたちまち同調してしまいました。
世界の景気同様に、この7月までの業績は大きく落ち込んでいます。その原因は、ただ一つ。会社の受注の50%近くになる受注元が、テレワークを実施中のせいで、発注や業務推進が機能停止、あるいは混乱状況に陥っているからです。この状況にいつまでも甘んじている由にも行かず、従来までとは異なる業務に販路を広げようと、工夫を重ねています。
その工夫には、私たちのような業界では、技術スタッフたちの配任業務の変更を伴います。その結果、慣れた業務から新たな業務へと変更することになるスタッフたちの戸惑いは、とても大きいようです。中には、本来自身が深めようとしたキャリアから、直接的には外れたように思うスタッフもいるようです。挙句には、業務の変更を受け入れるのは「嫌だ!」と、言う声が、直接または間接的に聞こえてきます。「嫌だ!」の理由は、「あの人が嫌だ!」のようです。子供じゃあるまいし、と嘆くほうが無理解なのでしょうか。
確かに、私の会社のスタッフたちは、プログラム書くことが好き、IT技術が好き、というだけあって、嵌ると一生懸命遣りますし、ソコソコの水準の成果を出すスタッフたちが多いです。そういうスタッフたちは、それぞれに自身の大きなエゴを抱えているようです。仕事をするのは興味があるから、会社のために仕事をしているのではない、自分の為に仕事をしていると、もし尋ねたら答えるでしょう。聞くと、そういう答えが返ってくるだろうことが推測できるので、聞いたこともありませんが。ですから、普通の組織に属する人たちが持つような組織への忠誠心というか、組織のために自分を曲げて何かを行う、という精神は乏しいのだろうと思います。言わば、相撲取りやプロ野球の選手のような精神性の特徴を持つようです。そういうスタッフたちにとっては、そういう心持で仕事に従事することが許される環境があって初めて、自らの思いのままの振る舞いが許されています。今、そういうことを許容する組織が消滅すると、同じようにエゴイスティックにばかり振舞ってはいられません。
ですから、自分たちの居場所を消滅させないということは、みんなにとっての共通目的のはずです。そのためには、一人一人が一時的にエゴを追いやることも必要です。そして、そういう風に自己のエゴに向き合うことが、自分の精神性の訓練なのです。ただ嫌だ!とばかり言って、逃げるのでは永遠に大人にはなれません。大人になれないということは、事あるごとに辛く、ストレスフルで、空しい日常を送ることになると、言うことです。現在、給料を貰ってお金を稼いでいるのだから十分自立した大人だと、考えるかもしれません。
しかし、お金を稼げることと、お金を稼げるスキルを身に付けることはかなり異なります。大雑把にお金を稼げるスキルを分解すると、精神力と能力です。精神力とは、根気や責任感、誠実のようなものが主たる構成要素です。能力は、先ず何よりもその道の技術力、やり切る能力ですが、それだけでは不十分です。コミュニケーション力、企画力、戦略立案力、指導力、等々様々な能力が必要です。
このように、お金を稼げるスキルは、ただ「好きだ。好きなことは人並か人並み以上に遣ることができる。」だけではだめなのです。そこには自律心の存在が必要です。自律心とは、自分の目的と、その目的に添う自身の規律を持つことです。自律心は、他人や環境のせいにすることはありません。もっとシンプルでかっこいいものです。自律心は、上手くいかないことは、自己責任だと見做します。
悪いのは、自分なのです。失敗を反省して一層精進する、を繰り返すだけです。つまり、プロになってお金を稼ぐ能力を身に着けるには、シンプルだけれどかなりキツイ努力が必要なのです。そうして何とか社会で生き抜いていく能力を手に入れた時、素直に、楽に日常を送っているのだけれど、ある程度の高みににいる、かっこいい大人の自分を目にすることができるはずです。