第789回 「言語化能力」
私の会社では、今年度入社の新人教育の真最中です。
例年、4月の1ヶ月間は入社及び新社会人オリエンテーリング期間です。
今年度は試みに、カリキュラム毎のオリエンテーリング講師を先輩スタッフ達に分散して割り振りました。
先輩スタッフ達にも、教えることを通じての学び体験をして欲しい、教える側と教わる側の双方に有意義な学びの時間を、と欲張り企画をしました。
流石に自身が新人であった頃の印象が未だ強く残っている若いスタッフ達は、まだまだ受講者を前に講義することには試行錯誤のようです。
一方、残りのスタッフ達は私が想像していた以上に上手です。
担当カリキュラム毎にケーススタディを用意するなど、新人に理解し易い工夫がなされています。
受講者からも好評です。
講師たちから新人個々への評価も、概ね私の印象に近く、人を見る眼も確実に育っていることを感じ取りました。
嬉しい驚きです。
ところで、講師役からの新人達への評価の中に、気になった点があります。
新人同士の会話が少ないことが気がかり、という評価の声が多いことです。
思い起こせば、同様の指摘は、昨年もあったことを思い出しました。
恐らく、その前の年にもありました。
何時の頃からか、そういう評価が上がり始めました。
このような特徴は、私の会社特有の現象なのかと、私は思っていましたが、実は普遍的な現象のようです。
この現象についてある人は、次のように分析しています。
彼らは生まれてからずっとデジタル機器に囲まれ、相対してのコミュニケーションする機会が自然と減少してきている環境で育っている。
様々な物に恵まれてきたので、何かしてもらうのが当たり前の環境下で、「ありがとう」と心から満たされた経験が少ない。
そのため、心から感謝の感情や何らかの感情を表現することが、乏しくなってきているのではないだろうか。
身の回りに不足を感じることの少ない彼らの就職志望・入社動機は希薄な人が多い。
因みに、某TV局の番組で大企業の入社式後の新入社員へのインタビューで入社を決めた理由のトップ3は、以下だそうだ。
1位 休日 、2位 福利厚生 、3位 給料
以上のような分析から、彼らの好ましくない特徴は、
彼ら自身に非があるのではなく、環境が故だと推測されます。
しかし、そうなってしまったことへの責めを負う必要はありませんが、自分達が社会人生活を営む上で決してプラスにはならない自分たちが持つ特徴、として自覚すべきです。
そして、その特徴を如何にして是正するかを考え、実行することこそが、社会人たるべき自立だと思います。
確かに、最近の新入社員たちは言語力が乏しいように感じます。
私の会社では、内定後入社までの間に5~6本のレポート提出を義務付けていますが、初期の頃に提出されたレポートはかなり酷いものです。
入社後も日報提出義務を通じて文章力のトレーニングを実施しているつもりなのですが、文章力以前に感情や出来事の表現化に課題を感じます。書く事ですら、このようなレベルですから、会話力はより深刻です。
単語が並ぶだけ。質問への即位即妙な応答が出来ない。
何よりも口の明け方が小さく、口の中で言葉がくぐもり相手にキチンと届ける事が出来ない。
などなど。
このように表現力に課題アリと感じていたのですが、実はより深刻なのは、深く掘り下げ分析・思考する経験も欠落しているのではないかと、最近気付きました。
その結果、就職先を決める理由が、上記のようなプアーな理由になっているのでしょう。
おまけに最近の大学生達は就職先を親に選んでもらうそうです。
これは、当事者が望むからか、親が望むからかはわかりませんが、益々自立とは程遠い新入社員を作り出しています。
多くの企業が新入社員に望む資質として“普通の人で良い”と、言うそうですが、普通の若い人はこういった傾向にあります。
人の幸せは愛されること、人に役立つこと、人に感謝されること、人に誉められること、など人と関わります。
組織に入り、仕事を通じてこれらを達成することが、一般的な人生の目標だと私は考えています。
私の会社の新人君たちだけでも、会社に入社して自分が成し遂げたいことは何なのか、そのための課題は何なのかを言葉にすることに挑戦して欲しい、と思います。
言葉にすることは、深く考えることなのですから。