第800回 「能力は多様」
採用面接をすると、大概の応募者が「やりたい仕事」と、
言う言葉を一度は口にします。
本気で「やりたい仕事」に拘るのか、
そういう言い回しが流行っているのか不明ですが・・。
いずれにしろ頻繁に出てくるキーワードとして
「やりたい仕事」は第一位です。
「やりたい仕事」に従事できるのは理想ですが、
「やりたい仕事」と「出来る(適性がある)仕事」は、
必ずしも一致しない場合があります。
つまり、「やりたい仕事」に憧れてはいるが、
その仕事を遂行するには資質が適さない。」
というケースが往々にしてあるのです。
そういうケースの場合、当事者は勿論のこと、
サポートする周囲の人たちもかなり苦戦します。
サポートする人たちは、「自分だったらこうするのだが、
どうして彼(彼女)は、そうしないのか?出来ないのか?」と、懸命にサポートすればするほど、
歯がゆい気持ちで一杯になります。
一方、サポートされる当事者は、
素直にサポート者の指示に従おうとするのですが、
どう頑張ってもその通りには出来ません。
あるいは、必死になって出来る人の何倍もの労力をかけてやっと達成できる、そんな具合です。
そして、サポートすることに強い使命感を持っている真面目なサポーターは、
本気になればなるほど上手くいかない現実にイラつき、
ついつい態度や言葉に移してしまいます。
そうすると、受けた当事者も、
サポーターのイラつきが伝染し、
同様に感情的になってイラついています。
これでは、消耗戦です。
双方の労力が無駄に燃え尽きてしまいます。
このようなことにならないよう、
就活前に職業と自己の適性との関連について
整理するのが一番なのですが、
大概の場合は、実際に職場体験して始めてそういう厳しい現実を知らされます。
仮に、そういう立場になった場合は、
冷静に自分をよく分析・理解する必要があります。
他者には出来て、自分は不得意な事柄。自分にとって得意な事柄。自分の行動・思考特性。などなどです。
そして、思い当たる自己の特性を、
サポートしてくれる人たちに開示することが重要です。
時々、このような自己の特性を自分の弱みだと思い、
他者に知られないようにする人が居ます。
しかし、自分の弱みは、開示することが望ましいです。
そうすることが、他者からの最適なサポートを得る最効率的手段なのです。
人は、それぞれが異なっており、
決して均質ではありません。
その差異を個性だとかアイデンティティと呼び、
自己表現のテーマとする芸術家なども居ます。
しかし、社会生活の大半では、
他者との違いは不自由や非効率の原因となります。
その上、こういう他者と異なる現象は、
近代産業の生産効率面では、負の側面と捉えられています。
少し余談ですが、こういうことを課題とし解決する目的で
「労働から人間を解放するために、
ベーシックインカムを実施しよう。」などと言う運動も、
スイスなどのヨーロッパ社会では起こりつつあります。
余談はさておいて、現実の社会生活では、
他者にできて自分は出来ないと言う差異は、
負の面が目立ちすぎ、不利感を生じさせます。
それ故、違いを隠そうとする人たちが出てきます。
でも、これは逆効果です。
現実を円滑に動かすためには、違いを開示することのほうが合理的です。
仕事などの場では、適材適所が運用しやすいからです。
但し、時には適所のバリエーションが少ない場合があります。
さらに、そもそも集団で働くことに適さない資質を持つように、見受けられる人もいます。
そういう場合は、どうするべきでしょうか?
それでも先ずは、試してみることではないか、と思います。
例えば、私の会社では、主としてシステム開発に関わる業務を遂行しています。
システム開発は、複数工程から成り立ちます。
その工程の中では、プログラミングに関して言えば、専門知識の習得の必要性はありますが、
比較的熟練工的業務です。
そういう参入障壁の低い業務に慣れる、挑戦してみると、意外と遣れることに気付く場合があります。
それを遣り続けるのも「続ける事が出来る」才能です。
それでもダメだったら、思い切る、止める、そういう選択もいいのではないですか?
世の中には、それぞれに向いた何かが必ずあるはずです。
「ダメなら、思い切り良く捨てる。」も、才能です。