第813回 「地道な努力」
世間では「働き方改革」「ワークライフバランス」などがトレンドのキーワードです。
そして、今や時間外業務を行うと言うだけでその職場は、ブラック職場と呼ばれています。
「ブラック」なる言葉も同じくトレンドのキーワードですし、逆にそういう世評を逆手にとって、名を上げる職場や企業もあります。
「時間外業務なし」「在宅勤務制度」などを表明する職場や企業は「ホワイト」と呼ばれ、
にわかに「クリーンで明るい」印象を造りだし、PR効果は絶大です。
一方、ブラックの風評が流された企業や職場は、
まるで犯罪者を眺めでもするような衆目の避難の目線に曝され、なかなかその名誉は回復されません。
尤も、こういう言葉や概念が、一般に流布したのは極最近です。
ですから、トレンドの変化が早くなった昨今では、
新しいトレンドの出現と共に、不名誉な風評も直ぐに忘れ去られるかもしれませんが・・・。
一方、現実的には時間外業務に関する事情は、そう簡単ではないものです。
従事する業務責任を全うするには、担当するメンバーの一人一人が、無理をしながらもやり遂げなければならない事情を抱えた仕事現場は、様々あります。
そういう現場では、世の中の空気と現実の狭間でリーダーやマネージャーたちは苦労をしています。
一方では、時間外労働を強要するわけにはいかない、ましてや最近の風潮しか知らない新人達は、時間外に対する偏った認識を持ち勝ちです。片や一方では、せめて時間外労働をしてでも労働量を補わなければ、業務を納得の品質・状態で完遂させることが難しい・・・・、どうしたら良いのか、やっていられない・・・・と。こういうジレンマの中で苦しんでいます。
そもそも、働き方改革という言葉の定義は、単に長時間労働から免れることだ、と言う理解が一般的なのでしょうか。違う、と思います。「働き方改革」にしても「ワークライフバランス」にしても、その目的は「楽しく働く」「仕事時間を幸福に過ごす」にあると、私は考えています。
誰しも、中途半端な状態の業務成果を残したくない、と思います。
それだと悔が残り、自らの仕事に誇りと自信がもてません。
だとしたら、職業人としては不幸です。
それを避けるためには、自分はどうすべきなのか、少し大変だけれど時間外は嫌だなんて言っていられない。優先順位は、悔いの残らない仕事の成果にあり、時間外労働を行う、行わないなどではない。と、自発的にモチベーションを働かせ、押し付ではなく、自らの責務を果たすために、業務遂行を買って出るのが、普通だと思います。
そうやって、業務責務を果たす事の出来た人は、自身の仕事に誇りと自信を持ち、達成感と言う幸福を手にする事が出来ます。その上、大変だったこと、苦労したこと、失敗したことなどを体験学習し、ワンステップ上の仕事スキルを習得できます。
必然的に、次回同様の業務に挑戦するときには、生産性も上がり時間外業務遂行も減ずる事が出来ます。このようなアプローチこそが、真の「働き方改革」の実現なのだと、思います。
つまり、リーダーやマネージャーが、メンバーたちをこのようなサイクルへ導いてやる事が「働き方改革」の実践なのです。
しかし、言葉で言うほどにメンバーたちを指導することは、容易くはありません。
業務着手直後は、メンバーたちは元気な意欲と希望と自信に満ちていますので、そういう理屈は他人事になります。業務が半ばを過ぎると、メンバーたちは疲弊気味になり、言葉を尽くしても彼らの心に染入らせることができず、リーダーやマネージャーの言葉は空しく素通りしてしまいます。
さらに、メンバーたちの内には、疲れから反撥する人や、気力の減退から体調を壊す人などが、出てきます。でも時には、無気力になり勝ちのメンバーたちを、奮い立たせることが出来る素晴らしいリーダーを見掛けることがあります。
このように力強いリーダーシップを働かせる事が出来るリーダーの特徴は、
何よりも自身が元気なことです。
決してネガティブな言葉を発せず、むしろ言葉少なに、しかし根気良くメンバーたちに語りかけます。
そして、メンバーたちとの間にしっかりした信頼関係が、構築されているようです。
何故なら、そういうリーダーたちはメンバーひとりひとりの性格特性や、個別に抱える事情などを理解したうえでの声掛けを、実践しているように見えるからです。
尤も、こういう信頼関係を築くには、日頃の地味な努力の積み重ねです。
地味な努力と言う言葉は、今や死語に近いくらい、苦手な私たちですが、
何事も地味な努力の積み重ねしか正しい実は結ばないようです。
ノーベル賞受賞者を思い浮かべると、納得しますね。