第832回 「自分をアップデートする」
オリンピックの話題が続きますが、今季日本の成績は素晴らしいですね。メダルの数に日本中が涌いているところで、今週もオリンピック関連からヒントを頂きます。
先ずは、ノルディックスキーの渡部暁斗選手の話題が、注目を引きました。渡部選手は、複合個人ノーマルヒルで銀メダルに輝きました。ところがメダル獲得後になって、オリンピック直前に左肋骨を骨折していたらしいことが、報道によって明らかにされました。当人は「痛みは気にならない程度」と、話していたそうです。
しかし、普通は怪我をした自身の部位を庇う気持ちが、優先するため、競技に集中する事が出来ないものだと、思います。渡部選手は、精神力で乗り切ったのか、本当に痛くなかったのか、判断出来かねます。今まで決して守りには入らず、自らを駆り立ててきた渡部選手ですから、強靭な精神力で乗り越えたのかもしれない、と思うほうが自然な気がします。
報道によると、自らのスキルアップの為の努力や工夫は、並大抵ではないようです。一見、スキーとは関連のなさそうなマウンテンバイクやヨガ、ピラティスなどの体験も、自らの身体の動きをコントロールするために挑み、自らのスキースタイルを構築するために工夫したと、いうことです。
この努力は、自分は決して天才タイプではない、と自らを分析し、スキーと自分との組み合わせにおけるベストパフォーマンス状態を探り続けた、戦略的思考に基づく行動だと思います。
戦略的といえば、フィギュアスケート金メダルの羽生結弦選手や、スピードスケートの小平奈緒選手にも、自らを激しい戦いの場に引きずり出し、自らが強く勝利へ引っ張ってゆく「自分への戦略」を、感じます。
羽生選手は、今季のオリンピック首位獲得後、「僕はオリンピックを知っています。」と、語ったそうです。この発言から推測すると、負傷による長期のブランク後の復活のピークと、オリンピックのタイミングを上手く同期させるよう計算し、工夫した、と考えられます。メダル獲得の著名選手ばかりを引き合いにしましたが、今季のオリンピック出場選手を眺めていて全員に感じたことは、自己コントロール力に非常に優れている、ということです。
狙ったメダルが取れなかった。思ったような成績を上げられなかった。そうすると、一般的にはとても落ち込んで人前にも出たくないと、思って当然です。でも、彼らは目には涙を浮かべていても、それでもにこやかな顔で「楽しみました。」、「次があります。」と、明るく言います。とても素敵です。こういう、10代や若い選手たちがいる日本の未来は、力強いと、感じます。
日頃、最近の若い人たちは××××、というような苦情ばかりを言っているのですが、捨てたものではないです。自らの気力とエネルギーで自身を律しながら、自分をアップデートすることに挑戦する若者たちは、それ故天才なのです。
ところで、「オリンピック出場選手たちを少しでも見習おうよ!」と、でも言おうものなら周囲から猛反発を受けそうです。「オリンピックに出場するような人たちは特別だ!凡人は、そういうわけには行かない!」などと。
でも、イメージしてみて下さい。5年後の自分が、現在から殆ど進歩していない姿。年齢を重ねると外見や身体は衰えます。その状態になるにも拘らず、中身は現在と余り替わらない自分の姿です。ちょっとげんなりしませんか?先輩や上司から指摘を受けると、直ぐ落ち込む人や失敗を恐れる人たちが多いです。でも実は、そういう体験が自身のアップデートに繋がっている、と考えて見てください。
誰からも厳しいことを言われない、自身が前に向かう刺激を受けることがない、そういう状況の中で自身を奮い立たせるには、びっくりするくらい大きなエネルギーが要ります。オリンピック出場選手たちは、こういう自らの大きなエネルギーを自らに投じているのですが、なかなかそれは難しいです。普通の凡人は、外部から自身を奮い立たせ成長を促す、そういうきっかけを頂けるチャンスを大事にしましょう。