第913回 「自分の土俵」
入社して2、3年も経つと、かなり職場環境と職務遂行に慣れます。
入社からの期間、先輩やリーダー達は、経験の程度に合わせて、彼らが出来るだろう業務を任せていました。場合によっては、同じ内容の業務ばかりを暫くの間、続けて遂行させます。
その理由は、業務が変わるとそれぞれの業務にキチンと向き合わないまま流すように次の案件に移るので、技術の定着が遅くなり、手順を追って成長をさせる為の効率が悪くなるように考え、次々と新たな業務に挑戦させないようにするのです。一部徒弟教育のような考え方ですが。。。
そうすると、時々勘違いする人がいます。
1年以上同じような業務遂行を繰り返すと、勘の良い人は慣れて習熟します。その挙句、自分は十分に技術力が付き、どんなことも十分に取り組むことができる技術者になった気になるようです。つまり、井の中の蛙になるのです。
ところが、そういう人に新たに未経験の業務遂行を任せることにします。すると、今まで慣れてきた業務遂行と大きく異なる場合、突然自信を無くしてしまうのです。
そして、「同じ程度の経験数を持つ〇〇君は、軽々とできていることが、自分にはできない。自分は、ダメな人間だ。このまま続けていてもよいのだろうか。」と、酷く落ち込んでしまいます。
その時、恐らく〇〇君が、自分が今まで遂行していた業務と同様の業務遂行に携わったなら、今の自分と同じくらい悩むかもしれない、とは思い及ばないようです。
この思考の問題点は、大きく見渡す視線が乏しいことです。
私たちが遂行する業務全般、全工程を見渡せば、自分が特化してきた経験業務部分は、ホンの一部でしかない。〇〇君にしても、自分と同様なのだけれど、自分とは異なるホンの一部の業務だけに特化した経験を積んできたようだ。と、いうようなことを考えると、新たなことに挑戦する意欲は、必ず湧いてくるはずですよね。
この落ち込み思考のもう一つの問題点は、自分と〇〇君は違うという視点を忘れてしまうことです。
よしんば、〇〇君が初めて取り組む業務をすんなり遂行することができたとしたら、この落ち込み思考の論理では、落ち込みはますます酷くなるでしょう。ここでは、自分と〇〇君の特性は異なるということを理解すべきです。
個々の人と人は外見も能力や資質、性格が、異なります。当たり前の事実です。
その事実を理解して、自分らしく振舞うことが仕事を続けてゆくにはとても重要です。つまり、自分が勝てる土俵を探し、その土俵に立つことが、長期にわたって続けていくための戦法なのです。
さらに、この落ち込み思考が煮詰まると、「こういう不甲斐ない自分への他人からの評価は低いはずだ。きっと、上司や先輩は自分をダメな人と見限るだろう。もうダメだ。」。あるいは、「上司や先輩の評価を下げないためには、できる自分でなくてならない。」と、やたら気負います。
そうすると、できない現実の自分と、できる理想の自分とのギャップがストレスとなって襲って来ます。つらい日々が続きます。これは、他人の評価に自身が乗っ取られている状態です。
あくまでも自分らしく自分の最善を尽くせば楽しくやっていけるはずにも拘らず、他人の想像上の評価に自身を痛めつけています。
長く続く仕事人生です。長く楽しく続けられる方法を模索しながら、実現してゆくのが賢い人ですよね。