第955回 「仕組みやルールの経年劣化」
日本学術会議が推薦した新会員の候補者6名を、菅首相が任命しなかったことが、話題になっています。
そもそも日ごろ私たちの生活には、日本学術会議の存在は、あまり馴染みがありませんので、その存在を初めて知った、という人もいると思います。
日本学術会議は、日本の敗戦直後、連合国軍総司令部(通称GHQ)の統治下の1949年(昭和24年)に設立されました。
設立当初の学術会議は、反軍事研究、平和主義が基本理念としてありました。
何故ならそういう思想の主役は、第二次大戦時中の軍部や戦争に翼賛的だったという自省の思いを持つ自然科学系学者だったからです。
ですから、政府から独立して政策提言を行う専門家組織と言う存在を意識したようです。
そういうことと無関係でないと思われることは、学術会議が、政府政策(とりわけ軍事や憲法問題)に批判的立場を取ることがあることです。
その意見は、学会が自らの研究に基づいた学術的考えに基づいて、政府に対して意見を述べると、言うことのようです。
しかし、今回の首相任命拒否の背景には、行き過ぎた日本の国益にならない学会の批判が目立つことにありそうです。
また、一部には学会のガバナンスに関する批判的意見もあるようです。
菅首相は、任命拒否の理由を明確にはしていませんので、もっと深遠な考えがあるのかもしれませんが。
いずれにせよ、設立当初は、時宜に適った良いものだったはずの制度や仕組みが、経年劣化し有益なものから弊害を成すものへと変化するのです。
この例以外にも、明治時代に制定され、今や陳腐化した制度による弊害の話題などは、頻繁に議論されています。
ハードウエアの経年劣化は、表面に出ますから比較的発覚しやすいものです。
しかし、制度やシステムのようなソフトウエアの経年劣化は、どうも見つけにくいようです。
組織や私たちの日常のルールも同様です。
ルールが制定された当初は、これを運用すれば万全であり、必ず課題は解決されるはずだ、と大きな期待をかけて運用を開始します。
しかし、時が経ち、内外環境の変化に従って、万全であるはずの仕組みが機能しなくなることがあります。
外部環境の変化が原因で仕組みが機能不全(機能不適応)になる場合は、それでもまだわかりやすいです。
何故なら、関係者たちがその事象を客観的に眺めているからです。
その挙句ITシステムの改定などに繋がり、私たちの売り上げ業務になり、有難い場合もあります。
一方、内部環境の変化に伴う仕組みの機能不全は、気が付きにくいようです。
一番端的な例は、会社の業務部門間で、引き継ぐような業務に纏わることです。
部門をまたがって遂行する業務は、部門間での引継ぎに伴い多くの決め事(ルール)が必要です。
決め事(ルール)としては、引き渡す情報やタイミングや所要時間条件、その他守らなければ引継ぎ行為が成功しない様々な条件を定めます。
取り決めた当初は、関係者たちは緊張してルールを厳格に守りながら業務遂行を行いますので、非常にうまく機能します。
そうすると、自分たちは良いルールを作った、このルールさえ機能していれば、万能だ、とばかりに安心してしまいます。
時が経ち、組織の関係メンバーの顔触れが変わります。
メンバー交代に伴う引継ぎにおいて、きちんとルールの引継ぎを行ったつもりであっても、複数回の交代を繰り返すうちに引き継ぐルールの一部が欠損したり、ルールを厳守する意識が希薄になったりします。
その挙句、業務遂行時にミスや不都合が生じることになります。
ですから、ルールを決める時には、ルールを見直すサイクルと、ルールを関係メンバーに再確認させるルールを盛り込む必要があるようです。
例えば、「気持ちの良い挨拶をしよう」というルールを決めると、決めた当初は大きな声だった挨拶の声は、時と共に段々小さくなり、そのうちに聞こえなくなります。
ですから、時々「挨拶をしようよ!」と、声掛けするルールが必要なのです。