第956回 「対話と信頼関係」
世界中で話題になっていたアメリカ次期大統領選挙は、どうやら落ち着きを見せてきました。
新たに大統領になるバイデンさんは、政治家歴が永いせいか、話術がとても巧みです。
あまりにも巧みなので、バイデンは曲者だ、信用できない!などと、言う人もいるくらいです。
話の展開や言葉の選択など、とても上手いです。
中でも私が、良いな、と感ずるのは、明確な発声、言葉の区切りの間合いの適切さなどです。
それ故、とても聞き取り易い感がします。
選挙戦中、トランプ現大統領とのテレビ討論会がありましたが、だみ声で時々不明瞭な発言のトランプさんに比べて、バイデンさんの話し方は各段に明瞭で聞き取りやすかったと、思います。
前回の大統領選におけるトランプさんの対抗馬であったヒラリー・クリントンさんにも通じる点です。
ヒラリー・クリントンさんやバイデンさんに私が感じることは、流石に職業へのプロ意識の高い人は、自身の売りをしっかり自覚して駆使しているな、ということです。
自身の業務遂行において、話すことが大きなウエートを占めると自覚する職業の人たち故、話す行為をとても大切にしている、流石プロだ、と思いました。
最近日本の首相になった菅総理の話し方も、話題になっています。
時には、自信がなさそうなど、と厳しい評価がされることもあります。
上記に挙げた人たちは、1国のリーダーやその候補者たちですから、国民が、リーダーを信頼し、安心して国の運営を任せることができる空気を醸し出すような話をすることが、目的です。
そのようなスピーチができると、スピーチ効果は高まります。
つまり、他者と話す行為には必ず目的がありますので、目的に応じて適切に演出することが、話す行為の効果を高め、本来の目的を達成させられるのです。
繰り返しになりますが、話すという行為は、場と目的に応じて自在に使い分けることが効果を高めます。
上記の例のように一方的にスピーチを行う場合では、自己の主張を論理的な組み立てと、明快な口調かつ平易な言葉で語りかけます。
そうすると、聞く立場の人たちの納得性と、信頼が得られるのです。
一方、対話は全く異なります。顧客の現場における、若いスタッフたちの悩みは「お客様と上手く会話を進めることができない。お客様に理解していただけるような会話は、どうしたらよいのか。とにかく、会話は難しい!」と、言います。
お客様が理解し辛いのは、話し手がスピーチするからです。
兎に角、伝えねばならないことを、一方的に畳みかけるように全部話そうとするので、お客様はついていけないのです。
対話はスピーチと違って、一方的に話したいことだけをしゃべるのでは、成り立ちません。
予備知識のない状態にある所へ、いきなり専門用語や、話し手の頭の中を聞かさせると、お客様は戸惑ってしまいます。
対話において、相手側に理解していただくためには、相手側の思考とのインターフェースを常に保たねばなりません。
相手側の頭の中を想像しながら、時には、相手側が理解するまで時間を置く(沈黙する)などの工夫をしながら、会話を進捗させねばなりません。
相手側が知りたいことに応えながら、本来目的へ導くべきなのです。
ですから、できるだけ平易な言葉、分かりやすい表現を使用します。
自分の言いたいことを言い切らずに、相手側の意見や言い分を傾聴しながら、会話を引っ張って行くと、必ずうまくいきます。
それが成功すると、対話者の信頼が醸成され強い人間関係が構築されます。
所詮、人と人との繋がりは、会話を通じて承認し合うことによって、築かれていくのだろうと、考えています。